どこでもライオン

This lion is everywhere and nowhere.

吉野家バイト

とても混む時期の吉野家で短期バイトをした。めがねの店長と顔の濃い女の子の指示に従って動く。

私の仕事は、卵を割るのと料理を運ぶくらいであまり難しくはなかった。

奥に調理場があり、そこから出たところを取り囲む形で客席があるので、真ん中から客席に目を配る。

仕事は簡単ながら、次第におなかが空いて疲れて気力がなくなってきた。勤務を終えた時には狭いスペースをぐるぐる歩きまわっていただけなのに足が痛かった。

求人票には「牛丼のディスカウント有り」と書いてあったが、めがねの店長はとても疲れているように見えたので、「まかないが欲しい」と言い出せないまま制服から私服に着替えた。更衣室から出てきた時、事務所の机に牛丼が置いてあり、店長が
「まかない、食べるでしょ」
みたいなことを言ってくれた。嬉しくなりながら
「あ、ありがとうございます。お金払います」
と財布を取りだそうとすると、
「いい、いい。払っとく」
とそっけなく言い、外に出ていった。

その時食べた牛丼が絶句するくらいおいしかった。甘くて深い味わいとおなかが温かくなる感覚に本気で泣きそうになった。レストランで親切な店員さんにオニオングラタンスープをもらう、今道友信の『温かいスープ』でもスープを飲みながら泣きそうになる描写があるけど、状況は違えど通ずるものを覚えた。