カバーソングの良さは言うまでもない。ただのカラオケじゃないかというパターンもあれば跳躍しすぎていることもあり、クオリティに雲泥の差はあれど、じっくり原曲の歌詞を再解釈する機会になる。いい機会なので、日本のカバーソング5選を勝手に選んでみようと思う。
1. Cocco 『ダンスホール』 オリジナル:尾崎豊
ダンスホールで出会った達観した女の子の話を聞きながら心惹かれている様子が描かれている。寂し気な女の子の心の動きとささやかな哲学にフォーカスされている。「俺の胸でねむるがいい」といった男らしい箇所もありつつマッチョすぎない優しい歌詞だ。オリジナルは尾崎豊らしくモテる男の人特有の粋な雰囲気とねっとりした濃厚な感じがあるが、Coccoが歌うと全体的に軽く明るいリズムながら心の内にすっと寂しさが入り込んできて、最後はさっきまで隣にいた女の子の不在を感じる歌い手と寂し気な女の子両方に自己投影している。
2. エレファントカシマシ『翳りゆく部屋』 オリジナル:荒井由実
簡単に言うとカップルの別れつつある情景をつづった曲なのだが、この歌詞は吉本ばななの小説のように淡々としていて、適格、しかしながらドラマチックだ。別れ話をしている時にメモをとっていたんではないかと思うくらい情景がありありと浮かぶ。
どんな運命が愛を遠ざけたの 輝きは戻らない わたしが今死んでも
このすごい曲のカバーに挑んだアーティストは結構いる。都はるみ、椎名林檎、徳永英明など。個人的にエレファントカシマシのバージョンが1番好きだ。小説のような情景と凄みのある一つの結論を宮本さんはアレンジ少なめで歌っているが、凄みのある結論パートに関してはちゃんと宮本さんらしく、でも乱れすぎずに感極まっている。再解釈にあたって塩とこしょうで調理し見事に完成させた例だと思う。
3. 加藤ミリヤ『For You』 オリジナル:宇多田ヒカル
宇多田ヒカルのカバーに挑んだアーティストも数多くいるが、加藤ミリヤの『For You』が1番好きだ。特徴としては加藤・宇多田の声と歌い方がかなり似ているところだと思う。聞き比べると確かに違いは分かるが、加藤ミリヤバージョンだけ聞くと、部分的にどちらが歌っているかわからないくらいだ。歌詞の内容は恋人に対してのやや鬱屈した思いと惹きつけられてしまう微妙な心の動きとなっているが、加藤ミリヤは歌詞の内側に入って歌い、その上でよくオリジナルに似ている。よく似ているだけ、微妙な差分が魅力になっている。
4.モノンクル『抱いてHOLD ON ME!』 オリジナル:モーニング娘。
少し眉毛が太い初代モーニング娘。の『抱いてHOLD ON ME!』。冷めかけている恋人に対するかなり重ための歌詞が続く。
あんなにスキって言ってたじゃない
や
もう一度スキって聞かせてほしい このままずっとOhマイダーリン
など。重い。この時のモーニング娘。のオーラも怖いし、恋する人間のB面が前面に現れている。そんな曲のモノンクルのアレンジは不思議だ。気だるさを増しつつ口当たりを良くしている。そして少しだけポップに。どこまで行っても重い曲なので、その真髄を残しつつのアレンジが勝因かと思う。
5. Aimer 『糸』 オリジナル:中島みゆき
言わずと知れた中島みゆきの『糸』のカバーは数多く存在する。超人気歌手や実力派などバージョンは多いのでじっくり聞き比べてみた。正直歌がうまくても厚みが感じられなかったり優しく歌っていても少し退屈に感じたりと、オリジナルが強いだけにカバーソングとしてのハードルの高さを感じた。そんな中Aimerバージョンは改めて歌詞を再認識させる吸引力がある。最初に聞いた時はかわいい声の女性だなくらいにしか思っていなかったが、個人的なひたむきさ(外向きじゃないひたむきさ)を感じる歌い方が非常に『糸』の歌詞とマッチしている。